EST (expressed sequence tag)とは、ある組織において発現しているタンパク質のmRNA 配列に由来するcDNA配列を部分的に決定したもののことを指します。ESTの特徴は、ゲノムプロジェクトとは異なりcDNA配列を決定していくことにあります。cDNA配列はイントロンが除去されているために、cDNA配列同士を比較することで機能未知なタンパク質の機能をそのホモログと比較することによって推測することができます。また、ある組織において発現しているmRNAに基づいて網羅的に配列を決定していくため、どの様な遺伝子が多く発現しているか傾向を知ることもできます。逆に、発現していないものについてはESTで取得することは出来ません。ゲノム配列の決定が行われればEST配列と比較することでイントロンの位置を知ることが出来るので、ESTデータベースの構築はゲノムプロジェクトと対をなして共に遺伝子解析に重要な意味を持つのです。
EST構築の際に用いるcDNAライブラリーの作製においてmRNAからcDNAへ変換する際に逆転写酵素を用いるために、その多くは3'末端側の配列を含んでいます。また、既知のベクターを用いてcDNA ライブラリーを構築するので、インサートの5'、3'両末端側からシークエンスを行えば完全長のcDNAを得ることもしばしばあります。完全長のもので興味深い遺伝子が単離されたときには、素早く解析に移行することが可能です。また、単離されたインサートが例え部分配列であっても、単離の際のプローブに利用することが出来ます。いずれにせよ、ESTデータベースは未知遺伝子の単離において非常に強力な味方となるでしょう。
近年は塩基配列決定法の飛躍的な進歩のため、世界各地で様々な生物について膨大な量のESTデータベースの構築が比較的容易に行われるようになってきており、またそれらが頻繁に利用されています。当研究室においても例外はなく、今後も更なるデータベースの構築を行うことで、より有用なものにしていくことを目指しております。