Lentinus edodes(シイタケ)は担子菌類に属しており、天然では白色の菌糸を持つ木材腐朽菌として倒木に含まれるリグニンを分解して生活しています。リグニンは難分解性物質であると同時に天然で多く見られる物質でもあります。担子菌類は他の微生物に比較的利用しやすいバイオマスを先取りされてしまったために、あえて難分解性物質を分解できるように進化せざるを得なかったのではないかと推測されています。担子菌類は自身の生き残りをかけて独自に歩んできた進化の中で、実にオリジナリティーのあふれるライフスタイルとそれに伴う種々の酵素群を獲得してきました。これはシイタケにおいても例外ではありません。シイタケもまたこれまで生き残りをかけて巧妙に進化してきた生物なのです。
シイタケはご存知の通り、れっきとしたキノコです。担子菌類とは、キノコ(子実体という)を形作ることで成熟する菌類の総称であり、キノコを形作る前はカビのような菌糸の形態をとっています。そのように特殊な進化を遂げてきた担子菌類はなぜキノコを作るのか、またどの様にしてキノコを作るのかはまだ良く知られていません。そこで、我々はこれまで非常に良く研究されている酵母や他の菌類と遺伝学的に比較することによってこの疑問に対する答えを導こうとしています。そのためには十分にシイタケならびに近縁種であるカビや酵母、担子菌類の遺伝子解析が行われていることが前提となるのですが、残念ながらこのプロジェクトを始めた当時はデータが大変不足しておりました。現在は出芽酵母や分裂酵母の全ゲノム配列が決定され、更に近縁種のカビや担子菌類の遺伝子解析も進展してきているため、ESTのデータ解析の際にはより多くのホモログが見られるようになりました。しかし、シイタケの遺伝子解析研究についてはまだまだ今後の発展に期待されているのが現状です。
シイタケは特に日本人になじみ深く、食用として古くから利用されてきました。近代に入り、シイタケはその需要のために日本で人工栽培法が確立され、和食においてなくてはならない存在になるまで人々の間に浸透しました。栽培方法が良く知られているシイタケを扱うことは、遺伝学的な研究を行う上で非常に有利なことだと言えます。なぜなら、特定遺伝子の破壊などを行った際にどのような形質が現れるかを比較するためには、安定した培養条件が知られていることが重要だからです。現在の人工栽培技術は、一つの菌床から何グラムのシイタケが取れるかが分かるまで安定しています。
近年では、担子菌類の持つ酵素が難分解性物質であるダイオキシンを分解することが明らかになりました。更に、シイタケを食べると血中コレステロールの減少、抗ガン作用、免疫力の増進など様々な健康増進効果があることも知られるようになりました。これら環境問題や現代病に対して優れた解決策となりうるシイタケは今後も人類の注目を集めることでしょう。その時に、我々のデータベースが少しでも役に立つことが出来れば幸いです。