GRCの実験の流れの詳細
ここではGRCの手順について詳細を述べる。

Step 1. 任意のベクター(pREP1など)を制限酵素により切断する。
制限酵素処理の場合は二種類(pREP1の場合はSal1& BamH1)で36℃,o/nで切断した方が、バックグラウンドが少なくなる。
ゲル切り出しを行うとバックグラウンドを更に少なくすることができる。
通常はキットなどで精製したプラスミドを制限酵素処理後、エタノール沈殿してから10µlのTEに溶かす。

また、誘導型プロモーターを持たないベクター(pAL-SK, pFY20, pDBletなど)をGRCに用いる場合はインサートを次のように調製する。
(1) own promoterを含むORFの両端に相同配列を付加する。
(2) nmt1,adh1,urg1プロモーターおよびORFそれぞれの両端に相同配列を付加する。

Step 2.ベクターの任意の配列の相同配列をPCRを用いてインサートの両端に20bpづつ付加する。

→通常,KOD-plus neoなどのfildelityの高いPolymeraseを用いる。
インサートを増幅するための鋳型はゲノムDNAでも良い。ただし、KOD-plus neoはRNAを多量に含む場合は
増幅効率が下がるのでRNase処理をしたゲノムDNAを用いた方がベター。
あるいは、cDNA or genomic DNA libraryを鋳型にしても良い。

pREP1などに組込む場合は以下のようにプライマーをデザインする。
Pnmt1-gene X F; 5'-tagtcgctttgttaaatcat+ (gene Xの開始コドンatgを含むセンス鎖塩基20bpの配列)-3'     total 40bp

gene X-Tnmt1 R; 5'-caagggagacattcctttta+(gene Xの終止コドンを含むアンチセンス鎖塩基20bpの配列)-3'    total 40bp
      
Step 3. Step1&2で調製したDNA断片それぞれを酢酸リチウム法で分裂酵母に形質転換して選択マーカーにて形質転換体を選抜する。

→1,2のPCR産物はそれぞれ通常50μl scaleで反応させた後、1μlほど電気泳動してサイズと増幅量を見積もる。
バンドが単一の場合は切り出す必要はなく、残りのPCR反応液をそのまま直接形質転換する。
バンドが複数ある場合は、ゲル切り出しを行うかPCRの条件を検討して単一バンドにする。

形質転換法は通常の酢酸リチウム法で十分である。
この際、Vectorの制限酵素処理産物のみあるいはInverse PCR産物のみをコントロールとして用いると、
インサートなしのバックグラウンドコロニーを見積もることが出来る。

形質転換体のコロニー数がgapped vector+Insert >> gapped vector aloneの場合はgap-repair cloningがうまくいっている。
形質転換体のコロニー数がgapped vector+Insert = gapped vector aloneの場合は大体全てのクローンはハズレである。

 また、pREP1などに組込む場合はホスト株としてゲノム内のnmt1プロモーター-nmt1 gene-nmt1ターミネーターを
欠損させた株を用いる方がバックグラウンドが少ない。さらに、NHEJが欠損した株(Δlig4,Δpku70など)を用いる方がバックグラウンド
が少ない。私は専ら自作した株(h+,Δlig4::natMX6,ΔPnmt1-nmt1-Tnmt1::hphMX6,leu1-32,ura4- D18)をホストとしてGRCを行っている。
ただし、この株はチアミン非存在下では生育が極めて悪いのでEMM培地にはチアミンを加えている。

Step 4. 形質転換体からプラスミドを回収して大腸菌にレスキューする。
→我々はQIAGEN miniprep kitを用いて分裂酵母(約1.0×108cells)からプラスミド回収している(Buffer P1,P2を250μlづつ加えてからガラスビーズを0.5ml加えて破砕する。
その後はプロトコール通りカラム処理を行い、最後に25μl Buffer EBで溶出する )。大腸菌はSimple and efficient methodなどで調製した形質転換効率がなるべく高いもの
を用いた方が無難である。Smash and grab methodでもレスキューは可能であるが、経験上この場合形質転換される大腸菌のコロニー数が少なくなる。

Step 5. 大腸菌からプラスミド回収/精製してDNAシーケンスでインサート内の変異の有無、プロモーターとインサートのつなぎ目を確認する。
同様の作業は出芽酵母でも可能。むしろ、増殖が速い出芽酵母を用いる方が、分裂酵母を用いるよりも速くGRCによるプラスミド構築ができ る。

GRC についての考察

インサートに付加する相同配列が20bpでかつpREP1をベクターとしたGRCを行うと、通常のwtの場合GRCの分裂酵母内での効率は 最大20%くらいである。
岡山大の守屋グループの研究だとpDBletをベクターとしてGRCを行うと、通常のwtの場合GRCの分裂酵母内での効率は最大70%くらいという報告 がある。
この効率の違いは一体何に由来するのであろうか?

これまでの経験と実験から、私はこの違いはおそらくベクター内に分裂酵母ゲノムと相同な配列を持つかどうかによって生じると考えている。
pREP1のクローニングの両端に存在するnmt1プロモーター、ターミネーターというのは分裂酵母ゲノム内にも存在しているため、
GRCが行われる際の相同組換えが起こる可能性は原理的に次の二通りである。

1)相同配列が付加されたインサートとベクターpREP1とで相同組換えが起こる→GRCが起こってベクターにインサートが挿入される。
2)分裂酵母ゲノム内のnmt1プロモーター、ターミネーターとベクターpREP1とで相同組換えが起こる→Gap-repairされるが、インサートは 挿入されない。

事実、上記2)の可能性を検証するために分裂酵母ゲノム内のnmt1プ ロモーター-nmt1 遺伝子-nmt1ターミネーターを欠損させた株を用いてpREP1のGRCを行った
ところ効率が70%くらいまで劇的に上昇した。守屋グループが用いたpDBletというベクターにはゲノム内との相同配列はないため、上記の可能性1)の みが起こった
と考えられる。我々もpDBletと同様に分裂酵母ゲノム内との相同配列が少ないpFY20というベクターを用いてGRCを行ったが、この場合もGRC効 率は高かった。

このことから、効率的に分裂酵母でGRCを行いたい場合は組込みたい位置の両側の配 列が分裂酵母のゲノム内の配列となるべく相同ではないベクターを
用いた方がよいと思う。