1.キチンキトサンの分解酵素の分子レベルでの解析

当研究室ではキチンを分解する微生物としてEnterobacter sp.G-1と命名した細菌を自然界より単離し、キチン分解酵素であるキチナーゼの遺伝子をクローン化して、その構造を決定している。キチンを分解し有効 利用するためにはこのキチナーゼを有効に用いる必要がある。 一方、キトサンを分解する微生物としてProteobacter beta サブクラスに属する新属の菌としてMatsuebacter chitosanotabidus 3001を自然界より単離している。本菌のキトサン分解酵素であるキトサナーゼの遺伝子をクローン化することに成功している。キトサナーゼの遺伝子レベル での解析は未だ数例にしかすぎず、本キトサナーゼも新規タイプのものであることがわかっている。大腸菌内で大量発現させ、結晶化を行っている。Matsuebacter chitosanotabidus 3001と近縁の種を複数単離しその性質を調べている。

2.世界最大の未利用資源キチン・キトサンへの微生物機能工学的アプローチとその有効利用

 キチン・キトサンは、カニ、エビ、貝類及び昆虫類の殻、イカ、酵母や椎茸の真菌類など自然界に広く分布してお り、地球上での毎年の生産量は、セルロースに次いで約 1千億トンと推測されている生分解性の多糖生物資源である。セルロースが繊維や紙、建築資材等に莫大な量が殆ど有効に利用されているのに比べ、キチン・キ トサンは、日本ではわずか年千トン弱、世界でも数千トンが利用されているに過ぎず、世界最大の未利用のバイオマスと言われている。
 キチンはNーアセチルグルコサミンのポリマーで、キトサンはその脱アセチル化物である。キトサンは、凝集剤として利用 されているほか、抗菌活性、免疫賦活活性、植物細胞活性化、抗コレステロール活性など多彩な生理活性を示すことから注目されている。厚生省はキトサンが抗 コレステロール活性を有することを認めて特定保健用食品として認可し、いくつかの機能性食品が開発されている。
 しかし、キチン質からキトサンを生産する際廃棄される、高濃度アルカリ廃液の処理などの問題や、キトサン利用の困難さ の為利用されている量は僅かで、その生産法の工夫及び利用研究の進展が期待されている。  山陰はわが国最大の松葉カニの産地であり、カニ殻は生分解性の大きな地域生物資源といえる。この有用資源の活用は地域経済の振興にも大きく寄与すると期 待される。
私達は、微生物の機能を利用してカニ殻から有害な廃液を出さないでキチン・キトサンを生産し、それを活用する研究を進め た。西日本を中心に全国から試料を収集して、カニ殻を資化する多くの微生物を単離し、その機能を強化、改良そして固定した。単離した優れた微生物の同定、 さらにキチン・キトサン代謝の中心的酵素であるキチナーゼ、キトサナーゼ、及びNーアセチルグルコサミニダーゼをそれらの微生物から精製し、性質を明らか にすると共に各遺伝子の構造を解析し、興味深い成果を得た。
 キチン・キトサンの分布、構造、代謝及び機能についての簡単な生化学について、ついで、新細菌Enterobacter sp. G-1由来のキチナーゼの性質とその遺伝子の構造、遺伝子発現を調節する初めて見い出された逆向き繰り返し配列因子(IRS)の機能、更に松江の土壌から 得た、新属新種細菌Matsuebacter chitosanotabidus 3001由来のキトサナーゼの性質と遺伝子構造、変異導入による機能解析とキトサンオリゴ糖生産への応用研究を進めている。
 また、Enterobacter sp. G-1によって発酵生産されたキトサン資材のタバコなどの植物病原菌に対する抗菌性及び植物細胞活性化機能とその生物生産における応用、キチナーゼ及びキ トサナーゼ、及びキトサンオリゴ糖の生産とその機能性食品等における新規利用について開発研究を進めている。
 これらの研究成果は、留学生を含む2人の学位論文となり、またその技術は国内外の特許として公開されている。

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